ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ミライに言ったんです。テレビに出たら僕とミライを取り囲む人が増える。そうなったらどこにも一緒には出掛けられないよって。ミライは寂しそうにしてました。僕だってそうなんです」

大学の実験室に一人でポツンと居たくないんですよ、所長。

「それはダメだよ」

「えっ?」

ダメ?ダメって?!

(何がダメなんですか?)

言ってる意味が良くわかりませんけど?

「二人ともそう思ってるなら、外へ出て行かないとダメだって言ってるんだよ」

所長が僕とミライの肩をポンと叩いてくる。

ちょっとちょっと待ってくださいよ。

「いや所長、だって外でマスコミやヤジ馬が待ち構えてるんですよ?そこへ出て行けって言うんですか?」

それは酷じゃないですか。

と、所長がフッと目を閉じた。

「こういう状況はある程度は想定してたんだ。この研究を始めた時にね。マスコミに取り上げられて騒ぎになるんじゃないかってさ」

それがわかってるんだったら、

「じゃあ何でそんな事を、」

と言いかけた、その時。

「最後まで聞いてくれ!」

カッと目を見開いて声を張り上げる所長。

いつになく真剣な眼差しだ。

「ボクらはマスコミを否定してるんじゃない。むしろ肯定してるんだよ」

「ええっ!」

マスコミを肯定してる!?

「ど、どうして!」

どうしてそんな事を!

「…」

なぜなんですか!

何を黙ってじっと見つめてるんですか!

ちゃんと説明してくださいよ!

「その理由はね、」

と、所長がフッと控え室の奥に目をやった。
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