ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 日も暮れた頃。

研究所の控え室の扉が開いて、広海君が帰って来た。

「センセー、見たわよテレビ!」

開口一番、僕を指差してニヤけながら寄って来る。

「そ、そうか」

こんな時だけは、いつも通りに口を聞いてくるんだよな。

と広海君が肩をバチンと叩いてきた。

「カッコ良かったわよ~。セリフもバッチリ決まってたじゃな~い」

「そ、そうか?」

そう澄まして言われると、裏に何かあるんじゃないか、とついつい被害妄想が。

「私、男の人の真剣な目、大好き♪」

オオッ、久しぶりに見る上目遣い!

「そうか」

これはチャンスかも!

「そう言ってくれると嬉しいよ」

この機会を逃してなるものか。

微笑んで一歩踏み寄る。

と、広海君にパッと身をひるがえされた。

「先生だけじゃないわ。所長も、本田さんも、みんな真剣なカッコイイ目をしてたわよ~☆」

完全に後ろを向いてる。

(何だよ、オイオイ)

僕だけじゃないのか。

と、広海君がスッと半身で振り返って、僕を見てきた。

「先生の研究への気持ちはよくわかったから。これからも、頑張ってね」

そう言って微笑んでる。

これは、許されたのか突き放されたのか?

「…ありがとう」

ま、笑顔を見せてくれただけ前進と、前向きに考えよう。

(慌てない慌てない)

少しずつ少しずつ。

と、広海君がパッと振り返った。
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