ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「あなたが笑顔じゃないから」

ハッと胸を衝かれた。

「あなたが笑ってないから。あなたが嬉しそうじゃないから…」

そうか。

「そんなあなたを見ても私ちっとも嬉しくない。傍にいるのに、こんなに傍にいるのに嬉しくない。…カラダが冷たい。悲しいくらい冷たい。ねぇどうして?」

見る間にミライの瞳が潤んでいく。

(そこまで想うココロが、)

ミライの中にあるのか。

(ミライ…)

悲しげに眉をひそめたまま見つめてくるミライ。

やがて涙がひと滴こぼれ落ちる。

「やっぱり広海さんじゃないとダメなの?私なんかじゃ、あなたは笑顔にはならないのかな…」

なんて切なげな声なんだ。

「そんな事ないよミライッ!」

ギュッとミライを抱き寄せた。

(そうだ)

僕は『大切な笑顔』が何かを忘れていた。

「そんな事ないよ」

一人でいる時、何度ミライの笑顔に救われた事だろう。

「実験室でもこの部屋でも、ミライがいてくれると心休まるんだ。ミライがいるだけで、僕は笑顔になれるんだよ」

両肩を掴んで語り掛ける。

「うれしい…」

いつにない笑顔で見上げてくるミライ。

そのまま僕の背中に腕を廻して抱きついてきた。
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