ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「うれしいっ」

ギュッと強く抱きついてくるミライ。

温もりが柔らかく僕を包み込んでくる。

(あったかい)

心を落ち着くあたたかな温もり。

思わずギュッと抱き締め返す。

応える様に、ミライが頭をコツンと僕の頭に添えてくる。

「いつも傍にいるからいつも笑顔。これからもずっと」

耳元で囁くミライの声。

(そうか)

ミライは僕をずっと傍で見ていてくれたんだ。

僕が広海君をずっと見ていたように。

(ミライは、僕の傍でずっと僕の事を…)

今になって気付いた。

(どうしよう、)

気持ちが昂ぶってくる!

「ミライ」

ミライの顔を間近に見つめる。

「…」

涙の残るミライの瞳を真っ直ぐ見つめる。

と、ミライがスッと瞼を閉じた。

(ん、)

一瞬で理性と衝動が身体の中を駆け巡る。

(わかってる)

でも、ミライの熱い想いにも応えたい。

(…キスぐらいなら、毎朝してる事だし)

少し開いた唇に、愛おしさを乗せて唇を寄せる。

「…」

唇が離れない。

腕の中で感じるミライの温もりが熱い。

(…まさか、こんな事になるなんて)

ミライがこの部屋に来てから半年の月日が流れてる。

その間に恋心を抱いた広海君を失った、寂しさの反動が大きかったのかもしれない。

(なるべくしてなったのかな…)

これもすべて、所長の計算通りなのか。
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