ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「じゃあ、そろそろ寝ようかな」

おっと、そうだよ。

「ベッド、一つしかないんだよな…」

リビングと三枚の引き戸で仕切られた5畳の寝室にベッドが一つ。

(さすがに一緒はマズイ)

たとえ万が一彼女がイイと言ったってダメだ。

(うなじや胸元を目の前で見せられたら)

こっちが眠れなくなるって。

(そうだ)

幸い、目の前には大きめのソファがある。

(ソファーで寝よう)

ベッドからシーツを引き剥がしてソファーに被せる。

代わりにベッドマットの上には新しいシーツを掛ける。

「ベッドの上で寝ていいよ。僕はソファーで寝るからさ」

「うん」

頷いてベッドの上にスッと上がるミライ。

そのままゆっくりと、身体をくの字に曲げるように横になって、枕にトンと頭を据えた。

「じゃ、じゃあ、おやすみ」

横になったまま僕を見つめるミライに声を掛ける。

「おやすみ…」

ミライが瞼を閉じるのを見てから、引き戸を閉めた。

(フ~ッ…)

一服したい気分。

だけど僕はタバコは吸わないし、冷蔵庫にはお酒もない。

(…寝よう)

リビングの明かりを消し、ソファーにドサッと横になる。

ようやく、長かった一日が終わった。

(いや、始まったんだな、これからが…)

なぜだろう。

奇妙な気持ちの昂ぶりと、どうしようもない不安が胸を駆け巡って止まらない。

(こんなんじゃ、)

目が冴えてぐっすり眠れないよ…。
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