ふたりの彼女と、この出来事。 （新版）

「君たちにはこの一年、色々苦労を掛けたからねぎらってあげようって思ってるんだけど、どうかな？ボクが奢るからさ」

聞いた途端、広海君が飛び付くように立ち上がってた。

「ホント！？ぜひぜひ所長！」

目をキラキラ輝かせてる。

相変わらずオゴリって言葉には敏感だな。

「広海君、ダンロって店知ってるかい？」

広海君に尋ねる所長。

「知ってるわよ」

そりゃそうだ。

僕が最初に連れて行ったんだから。

「じゃあそこに７時って事で。イヴだからカウンター席しか取れなかったけど、いいよね。ボクはミライを家に連れて帰ってから来るからさ」

と、所長がこっちを振り向いた。

「君も予定なんかないんだろ？待ってるからね」

って、あの～。

なんか釈然としない言い方なんですけど？

「ええ」

まあ、その通りですけどね。

「じゃあ、ウチに行こうかミライ。娘たちが楽しみに待ってるんだ」

「うん」

頷いて返すミライ。

と、所長があっという間にミライを連れて、テレビカメラを引き連れて出て行った。

（ふぅ…）

ま、これでしばらくはカメラから開放されるんだな。

「ねぇ先生、私一度帰って着替えるから、迎えに来て。メール入れるから」

って僕が答える間も無く、広海君が机に向き直ってる。

澄ました横顔には取り付く島もない。

（…相変わらず、か）

でもまあ、一緒に食べようって気になってくれただけでもありがたいよ。

「わかったよ。待ってるから、遅れないようにね」

呼び掛ける様に答えて、研究所を出る。

（そうかもう、）

テレビ局はいないから、一人でタクシーを捕まえて大学へと向かう。

「ん、…」

なぜだろう。

街中に漂うクリスマスの浮かれた雰囲気を敏感に感じてしまうのは。

（一人だからか…）

この時期の一人って、寂しいもんだよな。