ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「では、ごゆっくりどうぞ」

と、マスターが手際よく皿とグラスを並べてくれた。

「じゃあ広海君、始めようか」

「うん。久しぶりね」

嬉しそうに頷いてる。

(いつ振りだろう、僕に微笑み掛けてくれたのは)

久しぶりの、広海君との二人の時間だ。

カウンターの向こうでグラスを磨くマスターを遠目に、食事に手を付け始める。

妙な緊張感だな~。

「…」

ダウンライトの光がカウンターの上を丸く照らし出す中で、しばらく黙って料理を口へと運んだ。

「ねぇ先生」

と、広海君がおもむろに口を開いてきた。

「私、わかったの」

「え?」

わかったって、何を?

「ミライの目のデータを見て、わかったの」

手を止めてこっちを向いた広海君が、僕をまじまじと見つめてる。

「ミライの目には、いつも私を気に掛けてくれてる先生が映ってた。先生はずっと、私を見ててくれてたのよね」

広海君がフッと笑みをこぼした!

「わかってくれたんだ!」

そうか、そうだったんだ!

ミライの目には映ってたんだ。

広海君をいつも見ている僕の姿が。

傍で見ていたミライの目が、それを証明してくれたんだ!

「そうだよ!」

広海君、僕は、

「君をずっと見てたんだよ」

わかってくれてホントに良かった。

「ごめんなさい」

ハニかんだ笑顔の広海君。

少し照れたような、素直な微笑みだ。

もう、怒ってた頃の気配は微塵もない。

と、広海君がスッと僕の手を握り締めてきた。
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