ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ねぇ、あの時の言葉忘れて、先生」

「あの時の言葉?」

「そう。先生は私から少しも目を逸らしてなかった。なのに私、先生にヒドイ事言っちゃった」

ちょっと上目遣いで僕の目を見つめてくる広海君。

「いいよ。気にしてなんかないからさ」

わかってくれればいいんだよ。

「ありがとう先生」

広海君が手を握ったままスッと体を寄せてくる。

良かった良かった。

これで元通りになるんだな。

「じゃあ、こっちに戻ってくるんだ」

今まで通りに、実験室に。

「ううん違うわ」

と、広海君がパッと離れた。

「えっ」

違うのかい?

「私もう、こっちの研究に夢中なの。だから先生の所には戻れない」

そう首を振って返してくる。

「戻って来ないのか?」

それじゃ変わらないじゃないか。
< 284 / 321 >

この作品をシェア

pagetop