ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「うん。私も所長の研究所の一員として、ロイに関わってるんだもん。そっちが優先なの。先生だって、ミライさんとそうだったでしょ」

ウッ、

そう言われると返す言葉がなくなる。

(…確かに、人に言えた立場じゃないか)

僕も広海君との関係より、ミライとの実験を優先させてた。

『みらい』を担う大事な仕事として。

(広海君だって研究者だしな)

同じ気持ちになってもおかしくはない。

と、広海君が横からスッと僕の腕を取ってきた。

「でもね…」

ん、何だい?

「先生への気持ちは、あの時と変わってはないから、ね」

と僕の腕を取ったまま、しな垂れるように肩を寄せて来る。

触れ合う肩の温もりは、あの頃と同じだ。

(あの頃と変わらない、ってコトか…)

離れてしまってはいるけど、広海君の中には、あの時と同じ僕への気持ちが変わらずにあるんだ。

「…わかったよ。君の気持ちは」

僕への気持ちも、ロイへの気持ちも、全部ひっくるめてね。

「ホント?うれしい!」

広海君が瞳を輝かせて見つめてくる。

「ねぇ、今夜はあの時の続きの気分で、クリスマスをお祝いしましょ」

そうだね。

「じゃあ、ここを食べ終わったら、ウチへ来るかい?」

「うんっ」

広海君が微笑んで返してくる。

今夜は、素敵なイヴになりそうだ。
< 285 / 321 >

この作品をシェア

pagetop