ふたりの彼女と、この出来事。 （新版）
　二月も二週間が過ぎた十四日。

いわゆるバレンタイン・デーだ。

（で、このメールってワケか）

さっき来たメールには、『終わったら研究所に来て』とだけ書いてあった。

（渡しに来てくれてもいいんじゃないか？）

卒業が決まってから研究所に篭りっきり。

姿も見せやしないよ。

（ま、らしいと言えばらしいけど）

こんな時は優しいミライが愛しくなるよ。

（…ミライは、なさそうだな）

ミライとはずっと一緒でチョコを買いに行く素振りも見せなかったし、何か準備している様子も見なかった。

（ま、仕方がないか）

気を遣っているのかいないのか、ミライが朝から澄ました様子でずっと作業をしている。

そんな雰囲気で迎えた午後五時。

「はい先生、これ」

と、ミライが声を掛けてきた。

振り向くと、リボンで飾られた小さな包みを目の前に差し出してる。

「えっ、チョコレート？」

「うん。開けてみて」

頷きながら照れるミライ。

（いつの間に）

諦めていただけに、ちょっと感涙。

さっそく受け取って開けてみる。

中から、ちょっとボコボコしたハート型のチョコが現れた！

「手作りじゃないか！」

顔を上げると、ウンと頷くミライ。

「研究所に行った時、仮眠室でこっそり作ったの」

ニッコリ微笑み返してくる。

（隠れて作ったのか…）

仮眠室のキッチンでチョコを溶かしたり型に入れたり、一所懸命に作ってる姿が目に浮かんでくる。

何ていたいけなんだ。

「嬉しいよ。ありがとう」

「フフッ。どういたしまして」

微笑むミライ。

こんな事されちゃうと、ますます愛おしく思えちゃうな。
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