ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 落ち込んだ気分のまま控え室に入る。

(あぁ…)

急転直下とはこの事だよ。

と、さっそく広海君にツッ込まれた。

「あら先生、肩落としてどうしたの?」

それに答えるのはさすがに気が重いよ。

「ああ、ちょっとあって…」

「何よちょっとって」

広海君が食い付いてくる。

(ゴマかしても仕方がないよな)

さっきのやり取りを話して聞かせた。

「ふ~ん。つまり、今までの事は無かった事にしてよって言われたワケね」

そこまでズバッと言う事ないだろ。

「ウルサイなっ!」

つい声が。

「なによ、怒鳴らなくてもいいじゃない」

「…ゴメン」

なにやってるんだろ。

と、広海君が引き出しから包みを取り出して寄って来た。

(あぁっ、そうだった)

そのためにここへ来たんだよ。

「はいこれ」

リボンを掛けられた包みをぶっきらぼうに目の前に差し出してくる広海君。

「ねぇ先生、ついでに言っとくけど、」

ん、何?

「四月から私、ここに泊り込みで実験する事になったからね、一年間」

「え?」

泊り込みで一年間?

って事は、四月から僕がここに出入り禁止になったら、

「そう。今まで通りには会えないわよ、一年間」

そんなぁ!

ミライだけじゃなく広海君も…。

「どうしたのよ、受け取ってよチョコレート。せっかく作ったんだから」

広海君がグイッと突き出してくる。

「あ、ああ、ありがとう」

包みを掴むと広海君がパッと手を離した。

途端に重みがズッシリと手に載ってきた。

(なんだか、今までの事すべてを手渡されたような…)

今までの楽しかった事も大変だった事も、何もかも。

(この中に全部詰まってる、みたいな…)

リボンで飾られた包みをじっと見つめる。

あぁ、なんだか悲しくなってくるよ。
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