ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 三日後。

呼ばれて研究所に来ると、所長が控え室でコーヒー片手に待っていた。

この前とは違って、顔にはいつもの明るさがある。

「やあやあ。まずはそこに掛けてくれないかな」

声の調子も変わりない。

言われるまま空いた机の椅子に腰掛ける。

「あれから色々と考えたんだよ。すべてが一番丸く収まる、最良の妥協策をね」

妥協策か…。

「一体どうするんですか?」

言葉の響きからして、あんまり良い事じゃなさそうだな。

と、所長が椅子ごと向き直ってきた。

「どこか海外の大学に、一人で赴任する事にして欲しいんだ。二年くらいね」

「海外の大学に?二年くらい?」

一体どういう事ですか?

「前に聞いてると思うけど、ミライは一緒にいる時間が一番長い人に好意を寄せるようにしてあるんだ。だからミライは、この一年で一番長くいる君を好きになった」

確かにずっと一緒にいたのは僕だ。

所長がさらに続けてくる。

「だから、二年が過ぎて、本田君との時間が君や広海君と過ごした時間を上回れば、ミライは本田君を好きになるってわけさ」

そうして好きな相手を入れ替えてしまう、と。

「僕はフラれるってワケですか…」

あぁ、考えたくないなぁ。

「そういう事だね。そしてミライは、君の事を忘れ始める」

「!」

ショックな言葉だ。

(そうかぁ)

ミライが、僕と過ごした時間を忘れてしまうのか…。

「初期化しないでミライが動かなくなる事態を避けるには、これしか方法はないよ。二年経てば帰ってくる、そう言っていなくなれば、ミライのココロの痛手は小さくて済むからね」

確かに、そうかも知れませんよ、でも!

(ミライとの『終わり』を何とか避けられないんですか!)

もう望みはないんですか、所長!
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