ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「どうしたの?」

不安げに眉をひそめて問い掛けてくる。

(…堪らないよ)

一度目を閉じてから、やっとの思いで言葉を切り出す。

「実は、フランスの大学に臨時採用されて、これから二年間一人で行くことになったんだ」

あぁ、言うのもツラいよ。

「フランスに一人で?」

あぁ、そんな寂しそうな顔しないでくれよ。

「そう。だからこれから二年間、ミライには会えない」

なんて悲しいセリフなんだ。

「二年間、会えない…」

見つめるミライの瞳が見る間に潤んでいく。

こっちまで切なくなってくるよ。

「二年過ぎたらまた戻ってくるからさ」

「戻ってくるの?」

「ああ」

頷いて答える。

と、顔を伏せるミライ。

じっと床を見つめる身体が微かに震えてる。

(そりゃあツラいさ…)

と、次の瞬間ミライがパッと顔を上げた。

「うん。わかった。戻ってくるまで待ってる」

精一杯の笑顔で応えるミライ。

だけど潤んだ瞳から涙がこぼれて、スーッと頬を伝わり落ちていくじゃないか。

「ミライッ」

思わずギュッと抱き締めた。

けれど腕の中のミライは、普段とは違う、冷たく冷え切った温もりだった。

(あぁ…)

ミライはもう、僕には温もりを感じてくれないんだな。
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