ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ちょっと段取りがあるんだよ。ほら」

と所長に肩を掴まれて、そのままクルッと後ろを振り向かされた。

「あっ、…」

控え室の一面のガラス壁の向こうに、奥から出てきた本田君と広海君の後について歩く、白い布を女神のように身に纏ったミライの姿が見えた。

ゆっくりと歩くミライは伏目がちの足取りだ。

(ミライ…)

ミライはまだこっちには気付いていない。

と机の列の間を通り抜けた三人が、本田君を先頭に控え室からガラス戸を開けて研究室へと入ってきた。

そこで左右に分かれる本田君と広海君。

間から、俯いたままのミライが真っ直ぐに進み出てきた。

「ミライ!」

声を掛けずにはいられないよ。

「!」

ハッと気づいて顔を上げるミライ。

「先生っ!」

声を上げるや否や、喜び一杯の笑顔で駆け寄ってきた!

「会いたかった!」

そのまま僕の胸に飛び付いてくる。

あぁ、この時が再び来ようとは!

両腕で抱き止めてギュッと抱き締める。

久しぶりに肌で感じる、ミライのあたたかな温もり。

「戻って来たよ、ミライ」

戻って来たんだよ。

「うん。おかえりなさい…」

「ただいま」

ギュッと強く抱き締めて、ミライの頭を優しく撫でる。

ホッとしたように胸に顔をうずめてくるミライ。

「よかった…」

安堵感が湧いてくる。

あったかい温もりに包み込まれるようだ。

「あーあーあー、ゴメンゴメン、ちょっといいかな」

と、所長が僕の肩に手を掛けてきた。

「な、何ですか?」

せっかくイイ気分でいたのに。
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