ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「無理なんですか?」

「そうだよ」

と、ワゴンに手を突いてグッと身を乗り出してきた所長が、言葉を続けてきた。

「よく考えてごらんよ。ロボットのカラダには、君の研究の結果に表れたような脳波を出す脳も、それに反応する器官もないんだよ。ここでの研究結果を使おうにも使いようがない。違うかい?」

「そうか、」

考えたら確かにそうだよな。

「うーん、だけどなんかこう、惜しいですよねぇ…」

人間の心の状態を数値で表したデータならここに山ほど蓄えてある。直接は使えないとしても、何か形を変えて上手く応用出来ないんだろうか…。

「気に入ったよ」

と、所長が突然呟いた。

「え、何ですか?」

気に入った?

「ウン。今の君の『惜しいなあ』ってセリフがね」

ニッと笑みを見せる所長。

(え~っと、)

一体どういう事ですか?

「今の『惜しい、もうちょっとで何とかなりそうだ』って気持ちが次の新しい発見を生み出す原動力になるんだよ。ウン。君には素質がある。きっと何か新しい事を見つけ出してくれる。そんな気がするよ」

所長がまじまじと見つめてくる。

「そ、そうですか?」

所長も、たまには嬉しい事を言ってくれるじゃないですか。

「そうさ。きっとうまくいく。そう信じることさ!」

笑顔で声を張る所長の、熱く力強い眼差し。

思わず、その気になっちゃいますって。

「ええ。そうですね。頑張りますよ」

気付いたらそう答えてた。

「じゃあボクは帰るからさ。これから先はよろしく頼むよ。じゃあねミライ」

手を振って扉から出て行く所長。

横で手を振り返したミライが、パッと笑顔でこっちを振り向いてきた。

よ~し、ひとつ頑張ってみるか!
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