ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「私、何をしたらいい?」

ふたりだけになった無音室の中で、ミライが小首を傾げて聞いてきた。

「えーっと、そうだな…」

教授が言った通りしばらく実験もないし、取り立てて手伝ってもらう事は何もないんだよな。

「とりあえず、ここでの実験の手順を覚えてもらおうかな」

前室に出て、研究生向けに作った実験のマニュアル本を棚の中から取り出す。

特にアイツの為にわかりやすく作り直した、苦心の作だ。

「はいこれ。実験の手順が書いてあるから」

差し出した僕の手からマニュアル本を受け取るミライ。

「これに書いてある事を覚えるのね」

棚の前に立ったまま表紙をペラッとめくって読み始めるミライ。

(素直でいい子だな)

アイツとは大違いだよ。

『こんなにたくさん覚えられるワケないじゃないっ!』

アイツの第一声はこうだったっけ。

やっぱり、研究生はこうじゃないとな。

「これはどこにあるの?」

と突然、ミライが顔を上げて聞いてきた。

「え?」

「〝それぞれの取扱説明書を読んでおくこと〟って、ここに書いてある」

マニュアルを指差してくるミライ。

「ああ、それなら」

まとめてキャビネットの引き出しに入れてあった取扱説明書を取り出して、机の上に置いた。

「たくさんあるから、座ってゆっくり読むといいよ」

「うん」

頷いたミライが椅子に座って、隅から隅まで黙々とマニュアルを読んでいく。

ウンウン。

これからが楽しみだね。
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