ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「いらっしゃい」

40分程で着いたダンロという店。

洒落た木製テーブルが並ぶ、こぢんまりとした落ち着いた雰囲気。

レンガ壁に囲まれたカウンターの中では、口ひげを蓄えたマスターが一人で静かに支度をしている。

確かに教授が通ってもおかしくない大人の雰囲気の店だ。

「いいお店じゃなぁい」

奥へと進んで行った広海君が、ダウンライトに照らされたカウンターに腰かけた。

その手前に、僕が真ん中になるようにミライと並んで座る。

ミライと広海君を並んでは座らせられないって。

「お食事ですか?」

声を掛けてくるマスター。

見かけも渋いけど、声も渋い。

「お食事をされるなら、今日のお勧めはハマグリと季節の山菜のヘルシーパスタです」

スッと手書きで書かれたメニューを差し出された。

真ん中にお勧めメニューのポラロイド写真が貼ってある。

淡い黄色の皿に盛られたパスタに、大振りのハマグリと季節感あふれる山菜、それに彩を添える赤ピーマン。

「ねぇ美味しそうじゃない?どう先生?」

確かに美味しそう。

「そうだね。じゃあ、そのお勧めのパスタとビールを僕と彼女に」

広海君に頷いて、マスターに注文。

「そちらは?」

とミライを見るマスター。

「私、この店で一番強いお酒を一杯下さい」

「え?」

さすがのマスターも表情を崩した。

そりゃそうだよ。

突然そんなこと言われたら僕だって驚くって。

「大丈夫かい?ミライ」

「うん」

うんって…。

「ねぇホントに大丈夫なの?いきなりそんな強いお酒なんか飲んでも」

当然の疑問。

「うん。強いお酒だったら大丈夫。少ししか飲めないから」

って、理由になってるのかそれは?

すかさず広海君が噛みついた。
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