ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「だからって何も食べずにいきなり飲んだら体に悪いじゃない」

「大丈夫。強い方が体の消毒にもなるから」

ウインク交じりに微笑み返してる。

なるほど、そういう考え方もあるか。

「ふ~ん、そう」

まだ納得しきれない様子で身を引く広海君。

「それでは…」

と、マスターが振り返って棚からボトルを取り出し、グラスに注いでミライの前に差し出して、遅れてジョッキが二つ出てきた。

「じゃあ揃ったところで、乾杯」

ここはとにかく、色々考えずに飲んでしまおう。

「あ、うん、カンパーイ」

広海君とぶつけたジョッキを口へと運ぶ。

(く~っ)

冷えたビールがひときわ美味いっ。

横でミライもクッとグラスを傾けてる。

美味しそうに飲んでるな~。

(お酒には強いのかな?)

カウンターの向こうでマスターも、ほぅ、と驚きの表情をしてる。

「ねぇ、ホントにそれ強いお酒なの?」

うん、確かに気になるな。

「…じゃあミライ、ちょっと一口飲ませてあげてよ」

「うん」

頷いたミライがグラスを手渡す。

受け取った広海君がそっと一口、口に含んだ。

「ゲホッ、」

とたんに女の子らしくないムセ方で激しく咳き込む広海君。

「つよ~い…。私、結構お酒に強い方だけど、これはムリ」

涙目でムセながら、広海君が手に持ったグラスをスッとミライへ返した。

「ありえなぁい。尊敬するわ、ミライさんのこと」

か細い声で返す広海君。

相当強いんだな。

(広海君が参るんだからな)

結局パスタが出てくるまでずっとムセ続ける広海君。

(イイ気味というか、お気の毒というか)

ちょっと胸のつかえが下りたよ。
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