ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 仕事を定時きっかりで切り上げて、広海君とミライと三人で駅前に建つファッションビルへとやって来た。

広海君を先頭に、ミライを横に連れて入口からエスカレーターへと向かう。

(混んでるな~)

さすがは金曜日の夜、フロアーには若者が溢れ返ってる。

人の流れのままに進んでエスカレーターの手すりを掴んだ。

「待って」

と、ミライがエスカレーターの乗り口で声を掛けてきた。

「え?」

振り向くと、ミライがエイッとエスカレーターのステップに乗って、タンッと段を上がって横に並んで、パッと腕を組んできた。

「えっ!」

ど、どうしたんだい?

「人が多くて焦っちゃった」

ニコッと微笑んでくるミライ。

驚いた。

今どき、エスカレーターに乗るのが苦手な人なんているんだ。

しかも自然に腕を組んできてるし。

可愛らしいな。

「ふ~ん、珍しいね先生」

と、一段空けて上の段にいた広海君が、片足を一段下ろしながら僕の顔を覗きこんできた。

「先生がそんな風にくっ付いてるなんて。普段女の人とそんな風にしないじゃない」
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