ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「教授はこうも言ってたよ。こんなに人間そっくりなロボットがいるんだと公表された後では、もう二度と同じ状況での観察実験は出来ない。一生に一度、いや、人類史上、たった一度しか出来るチャンスの無い貴重な観察実験となる訳だ、ってね」

「確かに、そうですね」

彼女がロボットだと知られてからではもう出来ない実験なんだ。

いつもはロクな事を言わない教授だけど、さすがに今回ばかりは一理あるかも。

「あっ、それとね、」

と、思い出したように所長が続けてきた。

「もう一つ付け加える条件があるんだよ」

条件?

「何ですか条件って?」

「君の研究室以外には、この子がロボットだって事は決してバレないようにして欲しいんだ」

「えっ、どうしてですか?」

「最終の耐久試験が終わるまでは表立って公表出来る状態じゃない。これで大丈夫って確証を持って発表する前に勝手に騒ぎになると困るしさ、」

ニッと口元を緩めた所長が言葉を続ける。

「こういう事は最後まで隠しといて、突然格好よく発表して世間をアッと言わせたいんだ。これは開発者の密かな喜びってヤツかな」

なるほど。

その気持ちは分からないでもないですけど。

「それとね…」

パッと目を逸らす所長。

「何ですか?」

まだ何かあるんですか?
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