ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「そうそう、この子の人間らしいところは見た目だけじゃないんだよ。ちょっと手首を掴んで握り締めてみてくれるかい?」

と指を立てて声を掛けてくる所長。

「手首を?」

言われるままに手首を掴んでみる。

「わっ、ホントに人の手首みたいだ」

ちょうど体温ほどの温もりを感じる手首を、力を入れてギュッギュッと握り締めてみる。

ちゃんと骨格があって周りに肉が付いている感じ。

肌の柔らかさも丁度いい。

それに、脈のようなトクトクという感触も伝わってくる。

「脈もあるんですか?」

「そう。この子のカラダには冷却水を循環させる為のポンプが付いているんだ。ちなみに動力源は燃料電池なんだけどね」

「燃料電池…」

「水の電気分解の逆で、水素と酸素から電気と水を生み出す装置だよ」

文系の僕にはちょっと難しいな。

「燃料のメタノールから触媒を介して取り出した水素と、空気中の酸素を反応させるんだ。発生した電気はバッテリーに充電されて、水は汗を掻くように放出されるんだよ」

「へえ、汗を掻くように」

ロボットの体が汗を掻くなんて、何だか不思議な感じがする。

「だから走った時とか、燃料電池がフル稼動した後には、冷却の為に鼓動も早くなるし汗もたくさん掻くわけさ。ちゃんと苦しそうな表情をしてね」

へえ~。

「額に汗する苦しげな表情も出来ますってコトですか」

「そうだよ」

と、所長がパンと手を叩いて相槌を打ってきた。
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