ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「そうそう、人の表情を一番左右するのは何だと思うかい?」

え?人の表情を?

「そりゃあやっぱり口じゃないですか?」

答えると、所長が笑って返してきた。

「フッフッフ、君もそう思ったかい。ボクらも初めはそう思った。でも違うんだよ」

「違う?」

「それは実はね、眉なんだ」

自分の眉を指差す所長。

「いくら口を笑ってる形にしたって、眉をしかめると怒ってる様に見える。ウソだと思うなら自分でカガミ見ながらやってみるといいよ」

と所長が微笑んで、ミライを見上げた。

「さっき話したように、この子は汗を掻くし涙だって流せる。およそ水分が必要とされるところには水が補充されるようにしてあるんだ。人間でいうところの汗として額や脇の下といった汗腺へ、うるおい分として瞳や口の中なんかの粘液としてね」

ニッと微笑んでみせる所長。

「なるほど…」

よく出来てますね。

「声だって、ちゃんと舌と口を使って発音するんだよ」

なるほど。

どうりで違和感がないワケだ。

「ちなみにね、燃料となるメタノールは口から飲んで補充するんだよ」

えっ、口から飲むって、

「じゃあ、あの栄養剤だって言ってたのは、」

「そう、メタノールだよ」

そうだったのか!

病気だって言ってたのは全部、ロボットだって事をゴマかす為の言い訳だったんだ!

「じゃあ所長、食べられないってのは?」

本当なんですか?

「うん。食べるのはムリだね。飲めるのも燃料としてメタノールを飲むだけ。あと、アルコール度が高いお酒なら飲めない事もないんだけどさ、」

そうか、それで教授はあんな事を言ったのか。

「メタノールよりも不純液が多く出てしまうんだよね」

え?不純液が多く出る?

「その不純液はどう処理するんですか?」
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