ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ちゃんと排出されるよ、尿として。トイレに行ってね」

「なるほど!」

ホントにトイレに行ってたのか。

「よく出来てますね」

「よく出来てるだろぉ?」

したり顔の所長。

「だからこの子とは、一緒にお酒が飲めるんだよ。トイレが近くなるけどね。ハハハ」

なんだか人間臭いですよね、そういうのって。

「汗もかくし、トイレにも行くし、一緒にお酒も飲める…。ホント人間みたいですね」

ふと、横に立つミライを見つめた。

ダンロのカウンターでグラスを傾けていた姿が思い浮かんでくる。

(酔わなかったワケだよ)

広海君が参るほど強いお酒でも。

そこはちょっと、人間っぽくないんだな。

「所長、ミライはお酒に酔ったりしないんですか?人間みたいに酔っ払って、ハメを外して笑ったりしないんですか?」

尋ねると、一瞬間が空いた。

「ん、ああ、そうだね。…ちゃんと酔っ払ったように笑ってくれるよ」

所長が急に曇った顔を見せる。

(ん?)

自信に満ち溢れていた所長の顔が崩れたのを、初めて見た。

「そう、確かにこの子は笑ってくれるんだ」

呟くような声を漏らして目を伏せる所長。

一体どうしたんですか?

そんな寂しげな顔をして。

「何か問題でも?」

「ああ、まあね」

と、遠くを見つめてゆっくりと口を開く所長。
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