ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「毎日君の研究室に通うのは負担が大きいし、夜遅くなるとますます不安だし、いつ何が起こるか目が離せないからさ、」

と、信号で車が止まって、所長が振り返ってきた。

「だから、2週間でいいから、君の部屋で一緒に住んでもらえないかな?」

え、いや、

「だけど、」

素直にウンとは言えないですよ。

「頼むよ。電車通勤の教授には任せられないし、学生に命を預けるのは荷が重過ぎるし、お願い出来るのは君しかいないんだよ」

いや所長、そんなコト急に言われたって、

「待ってくださいよ、こっちにも心の準備ってものが、…」

渋って返す。

でも、所長は目を逸らさなかった。

「頼むよ。『ミライ』の夢を、どうしてもかなえたいんだ」

まじまじと僕の目を見る所長。

横に座る彼女もじっと僕を見てる。

「…」

どうしよう。

大体、こんなキレイな女性と一緒に住んでくれなんて話、ありえるのか?

(これは何かの罠か?)

そう疑いたくもなるよ。

(教授が僕を試そうとしてるとか?)

病気って事にして強引にくっ付けてしまおうとか?

僕が男としてどう対応するのか観察しようとか?

(あの教授ならやりかねないしな…)

どうしよう。

見つめる所長と彼女が動かない。

信号が青に変わっても動かない。

後ろに並んで止まっていた車がプップーッとホーンを鳴らしてきた。

それでもじっと僕を見つめ続けてくる。

なんだこの雰囲気。

(僕が頷くまで動かない気か)

後ろから盛んにプップーッと急かしてくる。

横から見つめてくる彼女の目付きも真剣だ。

その目に、嘘の気配は感じられない。

(…本当に彼女には時間がないのか)

だとしたら。

(そう、雰囲気と命令には逆らわない)

もう、答えは一つしかないじゃないか。
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