ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「プルルル…」

画面でベルが揺れる間がじれったい。

(頼む所長、早く出てくれ!)

こんなに落ち着かないのは初めてだ。

「あ、あの人」

と、ミライがパッと後ろを指差した!

「あっ!」

建物の入口に隠れて、ケータイを手にする帽子にサングラスの男がいた!

(マズイッ!)

とまさにその時、握り締めた携帯の画面がパッと切り替わった!

「何だい?」

聞こえてきたのは所長の声、映ったのは帽子にサングラスの男!

「え???」

ま、まさか、今隠れてケータイを手にした男って、所長ぉ?

「どうしたんだい、何かあったのかい?」

やけに心配げなその声は、所長の声に間違いないっ。

「所長っ!どうしたんだじゃないですよ!そんな所で一体何やってるんですかっ!」

クッと画面を睨み返す。

「あ、いや、ちょっと心配だったんだよ、どんな感じかな~って。だからついて来ちゃった」

って、そんな子供っぽい言い方…。

思わず溜息がこぼれる。

「所長!だからって変装してまでやるコトじゃないでしょうっ!こっちの身にもなって下さいよ!」

マッタク、何考えてるんですか!

「いやいや、ゴメンゴメン。驚かしたみたいだね。ウンウン、うまくやってるみたいで安心したよ。それじゃ、もう帰るからさ、じゃあね」

と、画面がプツンと真っ黒になって電話が切れた。

(何なんですかもう、ビックリさせないで下さいよぉ~)

尾行者が所長で、とりあえずは一安心だけど。

「もう聞こえなくなった。足音」

遠く後ろの方を見つめながら呟くミライ。

(やれやれ…)

携帯を収めながら大きく溜息。

(頼むからヤメて下さいよ)

警察に御用かも、って鼓動の高鳴りはすぐには収まりそうもない。

こんな事はもうコリゴリですよ、所長ぉ。
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