風の鳴る町

『私立光春女子高等学園』


広い敷地内に、校舎と校庭、テラスと寮があり、学生達は高校生活三年間の殆どをその敷地内で過ごす。

閉鎖的な空間。

桜も、降り積もる雪の景色も、高いレンガの壁の中でだけ眺めて過ごす。

紺色の制服を着て、笑顔の裏にそれぞれの思いを隠しながら。


微かに白く氷る吐息を吐き出しながら、雫をたっぷり溜めた芝生の上を歩く。

屋外に設置された、降臨祭の為だけの舞台を目の前に、足を止めた。

秋が終わり、冬が始まる前に行われる降臨祭。

三学年の生徒の中から、一人だけ踊り子が選ばれて、月の灯りだけを浴び、薄暗いこの舞台の上で舞う。

ピアノとフルートの細い音色に合わせて。

雨に濡れた舞台に手でふれる。

舞台は丸く、屋根もない。

広い庭の奥の方には、木々に囲まれた高い塔があり、その時計が丁度深夜12時の音を鳴らした瞬間、降臨祭は静かに、音無く幕を閉じる。


――29年前のその日、
踊り子に選ばれた母は、晴れた月夜の下で降臨祭を祝った。

全校生徒が憧れてやまない、その舞いを舞った。



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