* KING+1 *
半年ぶりの元の仕事場である。扉を叩く手が震える…

コンコン…


「こんにちは。」


「きゃあ~、安ちゃん?!」



「柚ちゃん ただいま。」



「え~安ちゃん益々綺麗になっちゃって。いつ日本に帰って来たの?」



「うん、一昨日副社長とパリから帰ってきたよ。」


「え?副社長と?あのイケメンの?」


「安ちゃん、元気だった?」


「室長、お疲れ様です。はい、それは大変な言葉の壁にぶち当たってはいますが、何とか攻略しながら頑張ってますよ。」


「ハハ…流石安ちゃん。挫けてないんだね。安心したよ。こっちに帰るのは 急に決まったのかな?連絡上から来てないからね。」


「ええ、1ヶ月間の研修で帰って来たのですが、本当に研修なんですかね?って、ちょっと疑っているんです。大きな声では言えませんが…怪しいんです。」


「そうなの?だけど、副社長と二人で凱旋とか、よく圭さんと百瀬君が許したなって思うんだよね。」


「有無を言わせない圧がありましたからね…。」


「ハハ…、流石の百瀬君も 副社長には逆らえないか…。」


グイッと、後ろから引き寄せられ硬い胸板に収まる。


「///はぁ。いつ帰って来たんだよ?俺に一番に挨拶しろよ…。」


いやいや、それはないでしょうに…。
あなたと私は 只のパターン室の同僚という関係だけだし。


「ほら、杏果の可愛い顔を俺によく見せて…」


くるりんと方向展開され、柑橘系の爽やかな香りに包まれ、顔をあげると、澄んだ目で見つめられた。



「咲本さん、お久しぶりです。」


咲本 聖人…私の中では死神と命名している人。


「ちょっとこっちに来い。」


パターン室を出て、隣の会議室に連れられ 扉を閉められた。


ここは私と先輩と圭さんが3人で仕事をしていた場所。まだレイアウトは前のままだ。半年間の間に撤去はされなかったんだ。


「ほら、こっちだろう?何別世界にトリップしちゃってるのかな?」


顎をグイッってされキスをチュッと素早くされ、クスッと笑う死神…


「なっ…。」


「お帰りのキス。だけど、その感じだと…まだ百瀬のモノにもなってないよね?」



ドキッ…
何でわかるんだろうか?エスパー?



「あと1ヶ月日本なんだろ?ハハ、百瀬も圭さんもパリ。邪魔者はいないか…。」


黒い笑みでニヤリと笑う咲本さんに 抱きしめられ身動きが出来ない!


「あの、私の好きな人はあなたじゃないから…。」


「チッ。杏果…もう少しお前は空気を読めよ。俺の機嫌が悪くなるだろ?それにあなたじゃなくって聖人って呼べよ。」


知らないし、呼ばない。今は怖いから言えないけど…。



「お仕置き。杏果からキスして…。ほら早くーーー。」



どんな罰ゲーム?流石に死神は容赦ない。
私はーーー


「好きな人にしかキスしないんで、ごめんなさい。」


ぐいっと強く胸を押し距離を取り、



「夜、パターン室の人たちと飲みに行きたいので、咲本さんも 是非参加して下さいね。」


とニッコリ笑って 会議室の扉を閉めて外に出て行った。





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