サヨナラは海の中
「そう。俺とあおはいつものように海で遊んでいたんだけどさ。その日はいつもとちょっと違った。先客がいたんだよ。1人のお姉さん。」
「……。」
とりあえず黙って陽人の話に耳を傾ける。
「…あ、お姉さんって言っても、確か中学生だったかな。…まぁ、あの時の俺らにとっては十分年上のお姉さんだったな。」
悲しいことのはずなのに、そのことを話す陽人は、穏やかで優しい顔だった。
「お姉さんはすっごい頭が良くてさ、俺らの知らない話をたくさん知ってんの。難しい話ばっかりじゃなくて、クジラに飲み込まれた海賊の船長の話とか、浦島太郎の話には実は続きがあって〜とかさ。俺ら、お姉さんの話にすっかり夢中になっちゃってさ。お姉さんにもすぐ懐いて。俺とあおとお姉さんとで遊んだんだ。」
自分に全く身に覚えのない話のはずなのに、妙な既視感に包まれながらあおの話に聞き入る。