【短】おにぎり

「お前、今日はおにぎりバイトないはずだろう? なんで勝手に俺の家に入った?」

 彼は私の方を振り向くと顔を隠すようにフ―ドを被り直して、私の方を見てきた。

 彼の目は見えないが、ほんの少し見えた。

 それは、どこか寂しそうで嬉しそう。

「勝手に家に入ったことは謝ります。でも、ここに来たのは…おにぎりがあったからです」

「おにぎり…」

「懐かしかったんです。祖母と作っているようで」

 彼は頭をかきながらなにか言いたそうだ。

「…そうかよ。俺はおにぎりバイトを始めてから、あんたが初めてだよ。こんなの言ってくれんの。でも、おばあちゃんと俺を比べんな。違うんだよ」

「…そうですね」
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