【短】おにぎり
「それでも、知りたいんです」
彼は下に俯き、終始黙った。
そして、意を決して私を見て声を発した。
「…言っても、引かないか?」
「はい」
私は彼の目を見た。
なんて目が綺麗なんだろうか。
鏡を丁寧に拭いた後のように輝いていた。
「俺は、このバイトをやろうと思ったのは、世の中に飽き始めたから。
普通に大学に行って、友達もいる。それは幸せなことだよ。
でも、なんかつまんないんだよ。高校までは、友達とワイワイして楽しかった。今は自分が自分じゃない気がするんだ。俺はいてもいなくてもいいのかと思うんだよ」
彼はズボンのポケットに両手をいれて、恥ずかしそうに伝えてくれた。
「…自分が自分じゃないっていうのは?」
「…分からないと思うけど。人の目が怖い。人と目を合わせることは俺にとって苦痛。目が合うと、その人がなにを考えているか分かってしまう気がして」
彼は両手を広げ自分の手のひらを見ていた。