狐の声がきこえる
その時、再び強く高く、ケーンと鳴き声が響いた。白彦の走りが早くなった。考える余裕もなく息せき切って足を動かす。皐月が知る本家の長屋門とは違い、真新しい木と塗りの長屋門が目前に迫る。その直後、隣の気配が消えた。
「きよくん?!」
急停止して振り返ると、白彦は皐月に背を向けて、あの人ならざるものたちの列に向き合うように立っていた。
「皐月ちゃんは、土蔵に戻るんだ!」
「でも!」
「行くんだ! 振り返らず全速力で、まっすぐ土蔵に!」
「きよくんは?! きよくんを置いてけない!」
「いいから行くんだ! 僕はここですることがある。君は足手まといだ!」
優しさも甘さも一切交えない激しい拒絶の声に、体を強張らせた。白彦は皐月の方を向かない。ただ全身で毛を逆立てているかのように殺気立っていた。
それはまるで、戦う姿勢だった。
このまままた会えなくなるのかもしれない。そう思ったら自然と体が動いて、皐月はその背中を抱きしめるように触れていた。白彦が肩を反応させた。
「……必ず戻ると、約束して」
振り返らなくても、白彦が確かに頷いたのを見届け、皐月は離れた。息を大きく吸って、長屋門の敷居をまたぐと全速力で駆けた。
背後で、今まで聞いたことのない雄叫びがあがった。それはどこか胸が痛くなるほどの悲痛さを伴っていた。
「きよくん?!」
急停止して振り返ると、白彦は皐月に背を向けて、あの人ならざるものたちの列に向き合うように立っていた。
「皐月ちゃんは、土蔵に戻るんだ!」
「でも!」
「行くんだ! 振り返らず全速力で、まっすぐ土蔵に!」
「きよくんは?! きよくんを置いてけない!」
「いいから行くんだ! 僕はここですることがある。君は足手まといだ!」
優しさも甘さも一切交えない激しい拒絶の声に、体を強張らせた。白彦は皐月の方を向かない。ただ全身で毛を逆立てているかのように殺気立っていた。
それはまるで、戦う姿勢だった。
このまままた会えなくなるのかもしれない。そう思ったら自然と体が動いて、皐月はその背中を抱きしめるように触れていた。白彦が肩を反応させた。
「……必ず戻ると、約束して」
振り返らなくても、白彦が確かに頷いたのを見届け、皐月は離れた。息を大きく吸って、長屋門の敷居をまたぐと全速力で駆けた。
背後で、今まで聞いたことのない雄叫びがあがった。それはどこか胸が痛くなるほどの悲痛さを伴っていた。