アンニュイな彼
今日はどうしてわかったの⁉︎

もしかして、私もうココの生徒じゃないから、外部の人間特有の馴染みのない気配がした、とか?

先生にそんな特技があったなんて。


「って、いうか……ね、寝込み⁉︎」


お、襲うだなんて、そんな物騒な……!

先生がこんなジョークを言うなんて、なんか意外でびっくり。

両手で唇を抑え、体を引き気味にさせながらそんなことをぐるぐる考えている私を、先生は捉えどころのない瞳で見つめる。


「今、起きたとこ。」


そして懐かしい、先生特有の飄々とした調子で言った。


「あ、あの……! 昨日、先生がsugar gardenに忘れて行った雑誌を届けに来ました」


私はバッグの中からWILLを取り出して、先生に差し出した。


「……」
「先生、聞いてますか?」


無反応。
え、まさか……忘れてる?

いやいやいや。
昨日の今日で。

そんなことって、ある?


「あの、sugar gardenって商店街にあるカフェなんですけど……。あ、ちなみに私、藤野愛です。三年のとき一組だった」
「届けに来たの? ……わざわざ。」


……えっと。
今〝わざわざ〟のとこ強調したよね?

言葉の節々に、よっぽど暇な奴、ってな感情が隠れているような気が……。



「この雑誌、ココの美術部が載ってたし、先生にとって大事なものかなって思いまして」



面倒そうに片方の足だけ膝を立てた先生は、立ち上がりがてら。


「うん、大事。だから、助かった」



と、感情がこもってない希薄な感じで言って、私の手から雑誌を取った。

ペコリとお辞儀をしたのか、たまたま高低差があるからそうなっちゃっただけかわからないけど、私を覗き込む体勢で目を細める。
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