アンニュイな彼
わ、笑った……?
今、ちょっと笑った⁉︎

感動すら覚える。
だって、いつも無表情だから。


「じゃ」


しかしそんな感動も長くは続かない。
先生は私を取り残し、スタスタと歩いて遠ざかって行ってしまった。

ちょ、ちょっと待ってよ!
こんなにあっさり。取り付きようもなく。

え。これで……終わり?


「せ、先生! どこ、行くんですか⁉︎」


私は授業中の優秀な生徒さながらビシッと挙手をして、大きな声で先生の背中に向かって言った。


「……休憩。」
「へ⁉︎」


なんとも間抜けな、すっとんきょうな声が出てしまった。
だって……。


「き、休憩って今、してましたよね?」


探るようにそう尋ねると、先生は物凄く億劫そうに振り向いた。たっぷりと時間をかけ、限りなく目を細めて、溜め息を披露。

呼び止められて迷惑そうだけど、バツが悪そうだけど、でも!
このまま終わりたくない。

そう思って、太ももの脇で拳をギュッと握りしめる私に、先生は……。


「コーヒー、飲む?」


と。抑揚のない声で言った。


「え、こっ……? はい!」


私にご馳走してくれる、ってことですか⁉︎


「先生、えっ? どこに行くのですか⁉︎」
「……」


って、無視ですか?

返事を聞きそびれたまま、私は先生の後を追った。
先生ってばいつも無気力でぼーっとしてるくせに、歩くのはやたらスピーディー。油断したら置いてけぼりを食らって見失う。

必死に小走りで先生を追いかけ、たどり着いたのは校舎の一角にある、運動部員専用の合宿所だった。
夏休みに遠征に来た学校に貸したり、宿泊訓練をしたりするが、普段は全く使われていない。

臆面もなくその建物にズカズカと侵入した先生は、給湯室にあるコーヒーメーカーを手慣れた様子でセットした。
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