アンニュイな彼
「なんかタンブラーにコーヒーをテイクアウトする人って、大人って感じですよね」
「オトナ?」
「はい。だからいつも先生があのタンブラー使ってるの見て、憧れて……て!」


な、なにを言ってるんだ、私は!
この状況に浮かれて口を滑らせすぎ!あやうく告るとこだった……。

心臓をバクバクさせて、誤魔化すようにゴニョゴニョと口を動かす私になど一切興味ないといった感じで、先生はカップを鷲掴みにしてコーヒーを啜った。

目線は窓の外に広がる校庭に送られていて、そこではサッカー部が練習していた。


「先生は、部活行かなくていいんですか?」
「行ってもすることないし。」


カップに唇を付けたまま、先生は気だるくくぐもった声で言う。


「いや、そんなことないと思いますけど……」


曲がりなりにも顧問なんだし……。
それに、総合文化祭で賞をとるくらい優秀なのも、先生の指導があってこそなんじゃ?
と、思った矢先。


「飲まないの?」


先生は私のカップをクイッと顎で指した。


「あ、私、猫舌で」
「猫舌?」
「はい。昔はオトナになったら熱いものも平気で飲めるようになると思ってたんですけど、治らないもんなんですね。ラーメンとかも必ず伸びちゃって」


へへっと笑いながら言うと、先生はふっと、斜めにした口から笑い声を漏らした。
目を細め、自分のカップを流しの作業台にコトリと置く。そして迷わず手を伸ばすと、私の手に触れた。


「あ、のっ⁉︎」


驚いて、私はとっさに肩を強張らせて仰け反った。

先生はクレーンゲームみたいに、私の手を掴んで自分の方にグイッと引き寄せる。


「せ、先生……⁉︎」


体がぶつかり合うくらい距離が縮まる。
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