アンニュイな彼
「ひ、ひどいです、先生……」
「いや、今のは誘導尋問でしょ。俺は真っ赤、って言おうとしたの」


飄々と言った先生は、片方の手をスラックスのポケットに入れ、壁に寄りかかるように立ってコーヒーを啜った。
その立ち姿だけでもすごく絵になるし、まつ毛を伏せて余裕な感じ。

私、顔を真っ赤にさせた変な奴って思われてるってことだよね? ショック……。

顔を見られたら恥ずかしいのでそっぽを向いてコーヒーを飲み干すと、こもったようなクッという笑い声が聞こえた。
腕を組む先生は、眉を下降させて片頬で笑っている。

もしかして、からかわれてる……⁉︎

私は先生と自分の分のコーヒーカップを急いで洗った。
醜態を搔き消すために必要以上にてきぱき動いたつもりだったのに、棚に戻してふと気がつくと、先生は先に給湯室を出てってしまったようで、姿がない。


「もうっ、ちょっとくらい待ってくれてもいいのにーっ」


私は文句を言いながら、慌てて合宿所を出た。
玄関の外で待っていた先生が、鍵をかける。小脇には、私が届けた雑誌が挟まれている。


「せ、先生!」


去ろうとする先生を、私はまたしても呼び止めた。

先生はほかの先生と雰囲気が違って、いつも神々しい光に包まれてて。
授業中も、お昼寝のときも目が離せなかった。


「あ、あの……」


けれどもあまりにも美しすぎて、立場が違いすぎて、なんだか心許ない存在だった。
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