アンニュイな彼
「……(やっぱり、こうなるよね)」


睡魔とジャンルは関係なかった。

腕を組んで小さな寝息を立てる様子は、昇降口でよく見かけていた光景そのもの。こうなったら先生は、簡単には起きません。

先生が寝ているのをいいことに、気を緩めた私は今のうちにポップコーンでも食べよう、と思ったのだけど。


「……?」


肘掛についた先生の腕が、少しずつこちらに寄りかかってきているような気がする。
横目で確認すると、先生の体はやはり、僅かにこちらに傾いている。


「っ……」


こ、これはますます緊張する状況……!

私が動くと先生にも振動が伝る恐れがあるので、おちおちポップコーンも食べられない。
私は体を強張らせ窮屈になりながら、これ以上胸のドキドキが激しくならないように、なるべくスクリーンに意識を集中させた。

そのとき。


「っ!」


両肩がギクリと動いた。

スクリーンにデカデカと映し出されたのは、濃厚なラブシーン。主人公がオフィスで同僚といい感じになって、そういう雰囲気になって、ってな流れ。

サスペンスにこういうシーンって必要ですか⁉︎
R指定があったけど、サスペンスだから少々残虐なシーンがあります、ってことだと思ったんだけど、まさかコッチだったとは……。

事前に下調べしとくんだった。
主演の女優さんはいい脱ぎっぷりだし、最中の声とかも結構響いちゃってるし、家族で見たらこりゃかなり気まずい系だなぁ。

でも大丈夫、先生は寝てるから、と。
安堵したのも束の間。


「__⁉︎」


先生は起きていた。
目をぱっちりと見開いて。
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