アンニュイな彼
体がカチコチと緊張で強張るせいで、動きはロボットダンスしてるようだし、受け取った伝票は落とす始末。

もう、なにやってんのよ私ーっ!


「す、すみません!」


すると緩慢な動きで屈んだ相手が、伝票をひょいっと拾い上げた。


「ありがとう、ございます……」


相手はなにも言わず、通常運転の無表情。
顔を真っ赤にして受け取った私は、ぎこちない動きでレジを操作する。

ドキドキドキドキ。
さっきから、もう動悸が激しすぎて胸がとっても苦しい。

コーヒー代をちょうどで受け取って、レシートを渡すとき。私は少しだけ上目遣いで、相手をちらりと見上げた。


「ありがとう、ございました」


すると、それまで表情ひとつ変えなかった彼が、一歩分だけこちらに間合いを詰めた。


「またネ。」


起伏のない平坦な言い方。
独特な間延びした雰囲気。

のんびりとしたスローなテンポで踵を返すと、カフェを後にする。

一言、たったそれだけ。
だけど、いつも観察してたから私にはわかる。

ちょっぴりだけ今、口角がクイッと釣り上がった、よね……?


「__ッゴ、ゴホ!」


先生__。

私のこと、覚えますか?
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