アンニュイな彼
教えてください。

彼女、いますか?

私のことどう思ってますか?

私は先生のことを思うだけで、胸を焦がしたように苦しいです。


「先生……っ」


とっさに駆け出すと、後ろから先生の腕にどん、とぶつかった。


「あ、あわわわわ! す、すみません!」


反動で、先生の体はボインと弾み、車の前で足を止めた。

緩い坂道だと思ったのに、意外にもスピードが出た……!


「ご、ごめんなさい……! い、勢い余っちゃって……加速おそるべしです!」
「藤野が言ってたチャンス、って。」


先生は低い声で、抑揚なく呟いた。


「俺に攻撃するチャンスだったの?」
「ち、違います!」
「だったら、なに?」


体は前に向けたまま顔だけ小さく振り向いた先生は、私を見下ろす。

その視線がものすごく呆れてて、もう本来なら関わりたくもないのにって、辟易としているように見えて。


「そ、それは……」


私は潤んだ声で、絞り出すように言った。
前の方から溜め息が聞こえた。

私は掴んだままでいた先生の腕から手を離し、一歩後ずさりをする。



「……チャンスっていうのは、先生に、伝えたいことを伝えるチャンスのことで、」


そこまで言うと、私は深呼吸して強く瞬きをした。
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