アンニュイな彼
智兄はなんだかいつもと雰囲気が違って、見つめられると凍りつくような怖さがあって、身震いがした。



「……それって、」



雑誌を捲る手を止めて、目を伏せていた先生から、鼻でふっと笑う声が聞こえた。



「モノ。じゃ、ないですよね」



溜め息交じりの低音の声。
先生は智兄を一瞥して、雑誌を閉じた。



「まあ、そうですね! 分かります? はは!」



わざとらしく明るい、乾いたような笑い声を響かせて、智兄は腰に手をあてカウンターの中に戻る。



「私これっ、お包みしますね!」


先生がコーヒーを飲み干して席を立ったので、私は急いでチーズスティックケーキを紙袋に入れると、レジの前に立つ。


お会計の間中、先生はなにも言わず、私とは目も合わせなかった。
いつものことなんだけど……。


『さっきのお返し。』


あの温もりを知ったあとだから、寂しいなって、物足りないよって思っちゃう。


「あっ、ありがとうございました!」


先生は紙袋を受け取ると、ドアの方に歩み寄る。


「あ、そうだ愛。今夜にでもまた新作の試食お願いな!」
「は?」


先生の後ろ姿を見つめていた私は、辟易とした声で智兄に返事をした。
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