アンニュイな彼
「あいつ、女と腕組んで歩いてたぞ。こないだ街で見かけたんだ」
「え……」


ちょっと待って。

あいつ、って?

ひょっとして……。


「背が高くて、髪は金髪くらい明るい色のクルクル巻きで、モデルみたいに綺麗な女だったよ。あの容姿の笹原先生と並んで歩けば、そりゃもう目立つのなんのって」


せ、先生……?

うそ、だよね。

見間違いじゃ?


「お前のさ、その〝先生に恋してた〟ってのは、自分でも言ってたように、同年代にはない落ち着きとか大人っぽさとかに憧れてただけだろ? それを恋と勘違いしてただけだで」


目の前が次第に暗くなる。

まるで一気に時間が進んで夜になったように、さっきまでとの明暗さが激しい。


「もう学生じゃないんだからいい加減、現実を見ろよ。本命がいるってわかっただろ? 目を覚ませよ」
「……っ……」


いくら呆れたように智兄が言ったって、そんな話、信じられないよ……。

確かに先生は目立つけど。

でも。


「俺だってな、よりによって信頼してた教師って立場の奴に、期待持たされて結果傷つくなんてとこ、黙って見てたくないんだよ。俺にとってお前は、昔から大事な存ざ」
「こんにちはー! っとと。あら、お取り込み中?」


新たにお客さんが入店してきたことに気付いていなかった私と智兄は同時にはっとして、ドアの方を向いた。
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