アンニュイな彼
先生が座ってた席の、テーブルの上の食器をトレイにのせ、キッチンに戻ろうとしたときだった。


「あれ?」


椅子の上に、雑誌が置いてあることに気づいた。
手に取ってみると、それはWILLというタイトルの地方情報誌だった。

これって、さっき先生が読んでいた雑誌……?


「なんだ、忘れ物か? それって確か、前にうちの店も掲載された雑誌だよな?」
「うん、ああ、そういえば……」


カウンターに持って戻ると智兄が手を差し出したので、私は雑誌を渡した。

私がここで働き出した春頃に取材され、初夏に刊行されたWILLにsugar gardenが小さく載ったんだ。
この付近の商店街特集で、チーズケーキが人気のお店ってことでかなり小さくだけど、写真付きで。


「お、愛の高校が載ってるぞ」


雑誌を捲っていた智兄は、とあるページで手を止めた。


「え? 高校⁉︎」


智兄の隣で、横からそのページを覗き込む。
夏に行われた総合文化祭の特集ページに、私が通ってた私立高校がデカデカと写っていた。


「ほんとだ! うわー、懐かしい!」
「って言っても、まだ卒業してニ、三年だろ?」


声を弾ませる私とは対照的に、呆れたように智兄が言ったとき。
ドアが開いたので、私たちは同時にパッと顔を上げ、入ってくるお客さんを見た。


「いらっしゃいま__って、真菜!」
「やっほー愛、こんにちは、智樹さん」


やって来たのは、高校のときの同級生の坂下真菜。
高校と同じ系列で、同じ敷地にある大学部に通っている真菜は、ここから近いってことで講義の合間にちょくちょく来てくれる、正真正銘の常連さんだ。
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