アンニュイな彼
「出版社の方ですよね? さっき妹から聞きました。そちらの雑誌、私もよく拝読していますー!」


真菜は先生の机の上に置かれたWILLに目をやりながら、森宮さんに愛想よく言った。
先生の机の後ろの棚には、バックナンバーが数冊綺麗に並べられている。


「ありがとう! 私、W出版の森宮と申します。おふたりはこちらの卒業生?」


とても上品に微笑みながら、森宮さんは私と真菜を交互に見た。


「はい、そうです。妹が現役で、私は大学部に」
「え! じゃあ、私の後輩だわ!」


ぱちんと両手を合わせた森宮さんは、真菜の言葉に嬉しそうに長い睫毛を伏せた。


「私もここの高校と、大学の教育学部を卒業してて、高校には教育実習に来たことがあるのよ」
「そうだったんですか」
「うん、晃太と一緒にね」


と、森宮さんが事もなげに言ったのを、私は聞き逃さなかった。


「こ、晃太……?」


それはどうやら、真菜もだったようで。小さく復唱する真菜と私の声がハモった。

森宮さんは、るんっと弾むような足取りで窓の方に近づくと、外を眺める。


「あの合宿所、古い建物だけどまだあるんだぁ。あそこでよく休憩したよねぇ、私たち」


先生に同意を求めるように目配せをして、懐かしそうに目を細める。


「こっちはほら、お坊ちゃまでいいご身分だからちょっとくらいサボっても問題ないでしょうけど、私は担当の中山先生に見つからないかヒヤヒヤしたわー」


だなんて、砕けた口調で私たちの笑いを誘うように言って、森宮さんは首をすくめた。
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