アンニュイな彼
『うん、大事。だから、助かった』


先生があの雑誌を大事にしている理由って、顧問をしている美術部が載ってるからってだけじゃなくて、彼女が記事を書いたから?


出版社に就職したけど、教育実習でここに来たって言ってた。


『職場恋愛? 俺もあるよ』


あれって、森宮さんと?

いろんなことに合点がいく。
すごく素敵で、お似合いで、絵になるふたりだったな……。

ちょうど昇降口に行き着き、肩を上下させて息を吐いた私は、トボトボと道なりに敷地内を歩いた。

高校と大学の境目に位置する校庭にたどり着き、 やがて右手には大きな建物が見えて来る。


『あの合宿所、古い建物だけどまだあるんだぁ。あそこでよく休憩してたよねぇ、私たち』


コーヒーを飲んだ私に、先生は〝共犯〟って言ってたけど。

先生、常習じゃないですか。
だいぶ前から、私が出会う前からあそこでサボってたんですね。

私が寝顔にときめいたり、再会に胸を躍らせたりしているときも先生のそばにはは、あんなに素敵な女性の存在があったなんて__。


「おねーさんっ! たこ焼きどうですか?」


気がつけば、人の波に流れて歩いていた私は大学の構内に入っていた。

屋台のソースっぽい、香ばしい匂いが立ち込める一角で、視界いっぱいに男性の顔が大きく映る。
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