アンニュイな彼
「八個入りと十二個入りがありますけど、どっちにします⁉︎」
「へっ?」


えっと……。
満面の笑みでたこ焼きのパックを片手に聞かれても、私はまだ買うなんて一言も言ってないんだけど。

そんな困惑の色を濃くして顔に浮かべ、私は手を振る。


「け、結構です……」
「えー、でも売れ残って困っちゃってて。これが売れたら店番から解放されるんだ! ね、協力してよ!」
「は?」
「近くにサークルの部室があるから、なんならそこでゆっくり食べれるし!」


そんな強引に言われても……。

たこ焼きを顔の高さに掲げ、男性は軽いノリで言いながら、私の歩調を止めさせるためにか前に立ちはだかった。


「あ、ちなみにサークルってダンスなんだけど! 君はなにかサークル入ってる? てか、何年生? 学部は⁉︎」
「いや、私は……」


困って言いながら周囲を見回すと、露店は結構混んで行列が出来てて、簡易的に設置されたと思われるベンチは若者たちで埋め尽くされている。
このお兄さんに押し切られてか、たこ焼きを食べてる人もたくさんいた。

みんな、ここの大学生?
よく言えばフレンドリーで話しやすいけど、悪く言えばなんか強引すぎて、私はこのノリにちょっとついていけないかも……。


「私、ここの学生じゃないです。たこ焼きもすみませんけど、結構ですので」
「なんだ、そっかー。じゃあ、売れ残り俺が買うから、その代わりに一緒に食べようよ!」
「は⁉︎」


なにそれ……なんでそうなるの⁉︎

今度は腕を掴まれたので、私はだんだんイライラしてきた。


「あのっ、手を離してくれませんか⁉︎ さ、さっきから断ってるじゃないですかっ!」
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