アンニュイな彼
「なになに? その雑誌」


カウンターのスツールに腰かけた真菜は、雑誌を覗き込んだ。


「ああ、これ、お客さんの忘れ物なんだけど、お前たちが通ってた高校が載っててな」


智兄が説明しているうちに、私はお冷やを準備して真菜に渡した。


「ああ、美術部でしょ? うちの妹も美術部なの。写真載ってるかな」
「え、梨沙ちゃんって美術部なの?」


真菜の妹の梨沙ちゃんは、私たちが通ってた高校の現役二年生。


「うん。なんかめちゃくちゃ絵が上手で総合文化祭で賞をとった子がいて、取材が来たんだって。新聞にも載ってたよね」
「そっか……」


笹原先生にとっては、部活の教え子たちが載ってる特別な雑誌ってことか。


「私、アイスココアとスティックチーズケーキのキャラメルナッツをお願いしまーす」
「はい! 少々お待ちください」


キッチンに入った智兄が準備し始める。
私は伝票を書きつつ、勝手に雑誌を捲り始めた真菜にこっそり耳打ちする。


「じ、実はこれ、笹原先生が忘れてったの」
「ええ⁉︎ あの笹原先生がここに来たの⁉︎」


目を大きくまん丸に見開いた真菜は、ぴんと背筋を伸ばした。
店内で、午後のひとときをゆったり過ごしていた年配のお客さんや、お喋りに夢中の主婦たちが一斉にこちらに注目した。
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