アンニュイな彼
ドアを開けて外に出ると、強い風が、私に洗いざらしの、新しい風を運んで来る。

頭に浮かんでくる智兄の、ガックリとした険しい表情は、いつか苦しさと一緒に私の心に浸透して、ときどきヒリヒリと痛んでは鎮まる痕になるだろう。
忘れてはいけない、人を傷付けた証に。

頼ってばかりだったから、一緒にいるのが当たり前になってた。
もっと早く自立していたら、こんなことにはならなかったのに。

そんな後悔と罪悪感を抱きながら、私は先生の腕を、掴まれてない方の手で引っ張った。


「あの、先生……て、わっ⁉︎」


足がもつれて、水たまりが跳ねる。

急に足を止めるから、私は前傾の姿勢で立ち止まった。先生の背中に、私の潰れた鼻が埋まる。「うっ……」

赤くなったであろう鼻先と、涙か雨かもう判別がつかないくらいぐちゃぐちゃに濡れた私の顔を見て、先生は片目を細めた。

着ていたシャツを脱ぎ、私の頭に被せる。もう充分濡れてるし、それに。


「前が、み、見えないんですけどっ……」


なんとかシャツをずらして視界を確保すると、 いつもの気だるげなものとは違う、どこか切なげに瞳を揺らす先生が、すぐそばで見えて。


「先、生?」
「そんな顔すんの、俺の前だけにしろよ」


え__?
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