アンニュイな彼
どんな顔ですか、って言葉を喉元で止める。
屈んだ先生は、首をぐっと曲げて距離を縮める。


「ま、ままま待って!」
「待ったよ、もう充分」
「へ……? で、でも、人が見てますっ」


先生の背後に通行人の姿が見えて、真面目に報告した私に、先生はちっと煩わしげに舌打ちをした。


「煩い」


ほとほとうんざりしたような言い方で、先生は私の顔を隠すようにシャツで覆う。
そのまま首をいっぱいに傾げてキス。
唇を離すと、先生はどこか深刻そうな顔で、私の顔をじっと見つめる。


「……するとき、目を開けてる派?」
「えっ……へ⁉︎」
「ぷ。変な顔」
「、っ!」


こ、今回ははっきり言われた!

真っ赤とかじゃなくて、変って! 変な顔って……ショック。


「ひ、ひどいです、先生……」


泣き声で訴える私を鼻で笑って、先生はまた歩幅を大きく歩き出す。
私は遅れを取らないように、一生懸命大股であとを追った。

先生の真っ黒の大きな車は、近くのコインパーキングに停められていた。
私は助手席に乗り込むと、頭に被っていた先生の黒いシャツを取る。

湿ったそれを大切に胸元で抱きしめていると、先生は行き先も言わず、ダッシュボードからメガネを取り出してかけ、車を発進させた。
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