アンニュイな彼
「あのっ、せ、制服! って!」


私は負けじと一歩引いた。


「懐かしいですよね! 現役の頃を思い出しますっ」


ベランダの窓の外では、歩道を行く人たちが差していた傘を閉じ始めた。


「うちの高校の制服は可愛くて人気なんですよ! 先生、知ってましたか⁉︎」
「……」
「わ、私ももう一度着たいなーなんて……はは」


雲間から顔を出した申し訳程度の日差しが、水溜りをキラキラ輝かせる。


「着れば?」


こちらに歩み寄った先生が、溜め息交じりで興味なさげに呟いた。


「どうせすぐ、脱がせるけど。」



そして後ろから、今度は逃さないぞとでも言うように、羽交い締めみたいにきつく私を抱きしめた。


「先、せ……っ」


苦しいです、先生。

もがけばもがくほど、私の胸の辺りで交差する先生の腕の力が強くなる。
口元から漏れる吐息の熱さが増す。



「同窓会、何時からですか? 本当に行かなくて、いいんですか? 森宮さんが……」
「今の俺にとって、好きなコと過ごす時間の方が大事だから」
「……は?」


素で、まったく可愛くもなんともない間抜けな声が出た。
苦しくて、ギュッと結んでいた両目をパッと開ける。


「先生って、私のこと……」


え? っと……。


「好き? なん、ですか?」


ぱちくりと瞬きを繰り返していると、先生は私の体を反転させた。
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