アンニュイな彼
「今頃気づいたの?」
「……へ」
「鈍すぎ。」


真顔で言われ、私は膝から腰から全身の力がすべて、抜け落ちてゆくように錯覚した。


「いやっ、だ……だって! 寝込みを襲う気かとかそういう冗談ばっか言ってくるから、からかってるだけなんだなぁ、と」
「冗談じゃないよ、本気だよ」
「へ?」
「割といつも、そういうこと考えてる」
「そ、そういうこと、って……」
「藤野が引くような、やらしいこと。」
「え」
「男だからネ。」
「い、いやややや‼︎」


そんな暴露しなくていいですから!
まともに顔見れなくなるじゃないですか‼︎

平常心を保てなくなるので聞くんじゃなかったかも、と後悔しだしたが、やっぱり心に引っかかってることをクリアにしないと。
私、いつまで経っても身も心も高校生のまま、片思い道まっしぐらな気がしてしまうんです。

片思い歴が長かったから、こじらせちゃった感が否めないけど。


「で、でもっ! 私といても、つまらなそうだし。私いつも空回っちゃうから先生呆れた顔してますし……」
「そんな風に見られてたなんて、心外だな」



片眉をピクリと微動させた先生は、すっと手を伸ばし、私の頬をそうっと撫でた。


「言っただろ、いつも触れたいと思ってる。」
「……」
「どうやったらこの胸に閉じ込められるか、って。結構必死。」


先生が、こんなに甘い言葉を囁くなんて……。辛そうに目を細めるなんて。

信じられない。

胸の奥が締め付けられるように痛い。
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