アンニュイな彼
「ま、待ってください!」


寸止めした私を、先生は怪訝な目で間近に見た。


「先生は森宮さんと、お付き合いをされてるのでは……」


森宮さんと先生とは昔から仲が良くて。それは彼女の立ち振る舞いからして明らかだ。
彼女が留学して、物理的に距離が離れたとしても、心はまだ繋がっていたら。

私は、割って入ることなんてできない。


「彼女には、感謝してる。」
「え?」


……感謝?

付き合ってるとか、そうじゃないとかではなく。

それって、どういうこと?


「美術部の取材に来たときに、森宮が宣伝にってWILLのバックナンバーを持ってきた。初夏号に小さくsugar gardenが載ってて、藤野を見つけた。彼女のお陰で再会できたんだ、感謝してる」


恋愛経験がまるでないから、不安が拭えなかった。
勝手に独りよがりな妄想を膨らませて、ふたりのオトナで素敵な関係に嫉妬していた私は、予想外の先生の言葉に、胸を突かれる。

どきゅん、と。一撃。

って、いうか。


「あっ、あの写真、見たんですか⁉︎」
「? ウン」


く、黒歴史なのにーっ!

でも、あんな写りの悪い写真に気づかれた恥ずかしさよりも、小さかったのに気付いてくれた嬉しさの方が大きい。

職場恋愛した、っていうのは、森宮さんじゃなんくて、私に……ってこと?
WILLが大事だって言ってたのも、私が載った雑誌だから?

私、こんなに幸せな気持ちになって、いいのかな。
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